昨日あたりから日エレのこの記事が話題になっています(参考文献[1])。
技術者一同を驚かせたのは,非常にコストのかかる作りになっていたことである。…<中略>…
こうした構造に技術者たちは一様に首をひねった。キーボードを固定するネジなどは,上から押したときにたわまないようにするといった効果があるのかもしれない。それにしても,もっといい方法があるのでは。「私がこんな設計をしたら,社内で絶対通らないですよ」(技術者の一人)。「技術的にすごいと感じるところは一つもない。我々ならもっと安く作れる」(ある技術者)。MacBook Airの内部構成は,設計の未熟さを表しているのだろうか。
【MacBook Air分解その5】「外は無駄なし,中身は無駄だらけ」
あきらかに釣り記事(参考文献[2])の類いであるし、まじめに考えるだけ無駄かもしれないが、いくつもの疑問がわいてきた。そういう意味ではこの記事の釣りは成功と言える。上野千鶴子並みの見事さである。
わたしは構造は詳しくないのでMacBook Airの構造の設計が本当に「未熟」かどうかはわからない。しかし、コストアップの要因になるような設計になっているのは事実であろう。しかしそれが本当に未熟であることを意味するのだろうか。
例えばダイムラーベンツ社が90年代前半に売り出したミディアムクラスのメルセデスベンツW124は、過剰ともいえる品質を誇っていた。たとえばドアヒンジに高い剛性を持つ部品を使うなどしていた。当然製造コストも高かったはずである。メーカーは反省したのか、次モデルのW210では一般的な品質に改めた。製造コストは下がったはずだが、大幅な値下げはしていないから、メイカーとしては利幅が増えてよかったということになるのだろう。しかし、同じものが安い価格で実現できたのかというとやはりそうではなく、ユーザーが得られる品質感が低下したのも事実である。MacBook Airは、国産メイカーの設計と比べて製造コストは高いかもしれないが、それが何かを実現している可能性はないだろうか。とくにMacBook Airはプレミアムモデルであることを考えると、製造コストの削減による品質感の低下はAppleの意図するところではないのではないだろうか。
しかし、記事中で発言しているのは構造の専門家であろうから、専門性に敬意を表して「未熟」であるとしよう。つまり、品質はまったく同じで、製造コストの低い設計ができるとする。Appleは何らかの原因でそのような設計ができないのである。記事中には生産工程を外注していることによる弊害ではないかと言う指摘がある。
製品の製造コストのみを比較すれば確かに、工場を自社で抱えて生産と設計とで密な連絡をとり、ネジの本数を削減したほうが有利であろう。しかしトータルでのコストはどうだろうか。工場を建設し従業員を雇い運用するのはカネのかかることなのである。製造工程にコアコンピタンスがない企業(Appleだ)の場合、多少のコストアップを覚悟してでも外注したほうがトータルでのコストは低くなるのではないだろうか。ようするに何のための「コストダウン」なのかということである。技術者は目の前の課題に夢中になる傾向があるし、それが求められる場合もあるのでしょうがない面もあるが、なにかをなすときには「真の目的はなにか」ということをよく考えなくてはならない。戦闘機単体の性能がすこしぐらい勝っていても、敵よりも数が少なければ総合的な戦力では負けるのである。この場合、真の目的は総合的な戦力の優越であり、戦闘機単体の性能の優越ではないのである。
第三に、技術者の発言「技術的にすごいと感じるところは一つもない。我々ならもっと安く作れる」というところである。確かにそうかもしれない。分解記事についたはてぶのコメントをみると「じゃあつくれよ」という意見があり、それに対して「もうつくってますよ」とある。もう作ってますよ、というのは具体的にはなんのことかというと、たとえばPanasonicのLet’s noteなのである。具体的にはLet’s noteのYシリーズ(参考文献[3])を指すようだ。写真はリンクをたどるとみられるのでみて欲しい。なんというか、MacBook Airと競合するとはとても思えないようなモデルである。
もし、Let’s note(やその他のモデル)のメイカーがMacBook Airと競合させようと考えるのであれば、製品プロデューサーは「設計」以外でMacBook Airが提供するものがLet’s note(やほかのモデル)からは完全に抜け落ちていることを反省するべきではないだろうか。
今日のまとめ
- 何かをなすときには「真の目的」が何かを常に考えなくてはならない。
参考文献
- 【MacBook Air分解その5】「外は無駄なし,中身は無駄だらけ」, Tech-On!, 2008
- 驚くほどリンクが集まる「リンクベイティング」に世界中が釣られている, 住太陽のブログ, 2007
- Let’s note Y7, panasonic